ロジパラさんを目指してた!

はてな日記で書いてた頃の冗談日記

知らないうちに身につけていたスキル

 頬に刺さるような風の日が続く冬。春一番が来たというけどまだまだ寒い。金曜日におでんが食べたくなった俺は途中下車をした。電車の高架下を中心にが並ぶ飲み屋街。新宿の歌舞伎町のようなきらびやかな彩色ではないがそれに負けない賑わいだった。

 おでんを食べたくなったのは会社を出て駅へ歩いていたときだった。コンビニのやつでは物足りなくなったのは乗り換え一つ前の電車に乗っているとき。サイトを検索する手段もなければその飲み屋街を知っている友人もいなかった。一駅歩く気持ちで電車を降りる。おでんの赤提灯を見つけたのは次の駅の近くだった。始めて入るところで地下一階。ちょっと入りづらいがここまで来て普通に帰ってもつまらない。えい、やあ! 階段を下りた。踊り場をまわると店の戸が閉まってなかったため、気づかないうちに入店していた。いつものくせで「こんにちは~」と言って店員の関心を呼ぶ。おばさんが忙しそうに対応してくれた。

 一人なのを告げるとカウンターへ通される。ママさんに一番人気の日本酒を聞いてそれを頼み、おでんの盛り合わせをお願いする。欲しい具があるかと聞かれて「大根、しらたき、ちくわ、ちくわぶ、卵を入れてください」と好き勝手なことをいう。板さんはそれにわかめとがんもどきを入れて出してくれた。

 関西風のおでんはおいしかった。冷酒がのどと胃を引き締め、暖かいおでんの味を引き出す。色が変わるほど味のしみた大根はうますぎる。しらたきは一口サイズで食べやすいかった。ちくわぶはちょっとやわらかすぎたけど、歯ごたえがあるよりはいい。

 料理との会話も一段落し、タバコを吸っていると板さんがこっちを見ていた。「お客さん……始めてだよね?」と一言。そうですよと答えると板さんは少しほっとしたようだった。

「いやぁ、店の雰囲気に溶け込んでるから常連さんの顔忘れちゃったかなって焦っちゃったよ」

 そのころ店の中が一段落したらしくママさんが現れた。ママさんも俺の顔を見て誰だったか考え込んでたらしい。

言われて考えてみると……

・入店時、「こんにちは~」と当たり前のような顔をして入ってくる

・酒を頼むのにママさんにお勧めを聞く

・おでんの注文で具をたくさん指定する

・これらの動作によどみや気負いや緊張が一切ない

オレはチェーン店のマニュアル通りの料理と接客と店内の雰囲気が好きじゃない。その店の味、お店の人との会話、趣味満載の店内が好きだ。どうやら個人店に行き過ぎて、入った瞬間に「常連客」になる術を身につけたようだ。

 帰るころにはママさんに「若旦那」というニックネームと授かり、板さんには巨人の上原浩治に似てて上原よりいい男という評価までいただいてしまった。

 お茶漬けが胃の中で落ち着いたころ席を立つ。今度はおでんの別の具を食べに来よう。だけど大根は必須だ。だっておいしかったんだもん。