■妄想
大きな部屋の真ん中においた天幕のあるダブルベットで横たわるオレ。窓辺の小鳥のさえずりに目を覚ます。体を起こした半裸のオレが小鳥を慈しみの目で見る。
「お目覚めになられましたか、おぼっちゃま」
タキシードの初老の男がドア付近で頭を下げている。
「おはよ、ポール」
「朝食のご用意が出来ておりますがいかがいたしましょう?」
「今日は天気がいいから外で食べる。テラスに持ってきてくれ」
「かしこまりました。コーヒーはいかがいたしましょう?」
「今日は紅茶にしよう。イタリア産のいいヤツがあったろ?それをレミー婆やにいれてもらってくれ。ブランデーをたっぷりで」
「かしこまりました。ところでぼっちゃま、申し訳ございませんが、このポール、ぼっちゃまの傍らでお休みになっている方を存じ上げません。お飲物はぼっちゃまと同じ物で?」
「いや、コーヒーも紅茶も飲めないらしいから農園のオレンジを絞ってくれ」
「ではお食事の用意をしてまいります」
ポールを見送った後、オレは傍らに目をおろす。親が石油商という赤髪の娘はまだ寝息をたてている。オレは赤い髪を乱暴になでた。夢の中にいる娘は力の入らない腕でオレの手を払おうとした。
■現実
何かが天井裏を走る「カリカリカリ」って音に目が覚めたときは朝から泣きそうになった。